ほろ苦い

物には“五味”などというコトバではいいつくしようのない、
おびただしい味、その輝きと翳りがあるが、
もし“気品”ということになれば、
それは“ホロにがさ”ではないだろうか。
ことに山菜のホロにがさである。
それには“峻烈”もあり、“幽邃”もこめられているが、
これほど舌と精神をひきしめ、洗い、
浄化してくれる味はないのではないだろうか。
ひとくちごとに血の濁りが消えていきそうに思えてくる。
開高健